農水産業に風は吹かず、光も当たらず

このニュースを農業従事者はどうみているのだろう。

残業時間の上限規制を設けた働き方改革関連法の施行から4月で5年となる。厚生労働省は23日、次の改革に向け有識者研究会を始めた。労働基準法は大正から昭和にかけての工場労働が前提で、現代にはそぐわない。働き方の多様化に合わせ、どこまでアップデートできるかがカギとなる。

引用元: アップデート迫る労働法制、現状に合わず 厚労省が議論 – 日本経済新聞

実際に厚生労働省の資料を読むと、労働する「場」に出向くことではじまる労働から、時間や場所にとらわれることなく働く労働が増え、時代にそぐわない法制度になっているという。
また、高齢社会をむかえる日本にあって、どのように労働者を確保するかという問題も、喫緊の課題だ。
このまま法制度に手を付けないでいると、多様な働き方をする労働者と使用者や法でミスマッチが起こり、対応できないことによる機会損失が多くなる。
人口動態が変容することでそれぞれのライフステージもそれに伴い変わり、出産や育児、介護など労働に従事することが難しいタイミングも起こる。
国内でなんらかの仕事に従事していれば誰しも、そのような不安を胸に抱えていることだろう。

だが、資料を読み込むうちに僕は不安になった。
それは「農林水産業(林業を除く)」がいつものとおり「除外」されているのだ。
子どもでも妊婦でも、使用者が「働け」といえば休みなく働かせられる農水産業も、このタイミングで何らかの変化があるかと期待したが、そういった「風」も吹かず、「光」が当たる気配も微塵も感じられなかった。

農水産業は「労働基準法の適用除外」であることは、業界に身を置くものならばある程度認知されている事柄だ。
以下、適用除外とされる項目をあげる。

  • 労働時間
    • 法定による労働時間の限度なし
  • 休憩
    • 休憩についての定めなし
  • 休日
    • 休日についての定めなし
  • 割増賃金
    • 深夜労働にかかる割増率以外の割増率は不要
  • 年少者の特例
    • 年少者へ時間外、休日労働及び深夜労働させることができる
  • 妊産婦の特例
    • 時間外、休日労働をさせることができる(ただし、深夜業はさせてはならない)

一般的な企業にサラリーを貰いながら労働を行う人間にとって、この条件には目を疑うだろう。
僕にはオフィスワークよりも肉体的に酷使する労働が、このように極端なのはイマイチ理解できないままでいる。

よく言われるのが、そもそも農業とは、

  • 家族で営む生業であるがゆえ、一般的な労働にそぐわない。
  • 農業は天候が崩れれば作業できないし、農閑期もある。だから休みも多い。

といった論調のハナシだ。

が、食料を安定的に供給するためには、全天候型の施設栽培の普及がより奨められることを踏まえると、必要となる人手も家族経営では成り立たないだろう。
また、施設栽培が多くなれば、雨が降ろうが(温暖な地域であれば)雪が降ろうが、問題なく作業は行える。
にも関わらず、このような「法の隙間」を狙って、無理な労働を強いる使用者は、恐らく少なくないだろう。
休みもなく低賃金のまま、あらゆる作業に人を使える。
人件費の単価として、これほどまでに人的リソースを安く使える業種は他にない。

第3次産業に従事する人口が増えたいま、そうした労働力から農水産のような第1次産業に労働力を集積させるためにも、「法」をフレキシブルに変化させる必要があると僕は思う。
そんな段階で、第3次産業の「法」ばかりに注目が集められ変容するのなら、人材獲得競争の出だしの時点で大きなハードルを設けられている。
休みが多く、賃金が高い業種と上記のような劣悪な労働が待つ産業とでは、求職者にどちらが選ばれるのか…。
農業はいっそう人口減少からの衰退は免れない。

農業だけでなくあらゆる第1次産業はいったい、何に忖度しているのだろう。
メシが食えなければ、あらゆる産業も成り立たないと僕は思うのだけれど…。

(参考:農業における労働基準法適用 – STEP WAP 農業の働き方改革〜男女共同参画による経営発展〜

この記事を書いた人

名無しのユータ

「読書が趣味」という訳ではないし、遅読で読解力も低い。けれど、読書を続けることでモノを考える力がやっと人並みに得られると感じ、なるべく毎日、本を紐解いている。
趣味はランニング、植物栽培など。