タマゴはそう簡単には腐らない

ある日、妹が「卵焼きを食べてお腹を壊した、卵がダメだったかもしれない」という。
さらに今日、家人が「冷蔵庫の賞味期限切れの卵、アタシは食べない。混ざるとイヤだから使わない」という。
僕は呆れ果てた。

そもそも卵は腐りにくいことで知られている。
とくに冷蔵庫に入れた状態であれば、多少の賞味期限が切れたものでも食べることができる。
これは昔からの知恵で、長く生きている人こそ知っているものだと思っていた。
が、衛生観念がハードに普及したためか、そうでもないらしい。
ではなぜ腐りやすいものであるのなら、冷蔵庫ではないカートに山積みにするのか。
なぜ冷蔵庫に入れていないスーパーの卵を、消費者は手に取ったのだろうか…。
そういった疑問すら持たないのも、不思議に思う。

物の本にはこうある。

「タマゴは冷蔵庫で保存する」としながら、一方で「室温で腐らない」と逆のことをいう。本当に産んだままの状態なら腐らない。ところで総排泄口から放卵されるため、卵殻に糞と尿(白い部分)が付くことは避けられない。そのため市販のタマゴは出荷前に湯洗いされて汚れが落とされている。この洗う、洗わないが決定的な違いを生む原因である。腐るとは、「微生物が増殖する」ことである。タマゴは無菌状態で産まれ、したがって腐らない。じつは洗ったことで微生物が内部に侵入できる状態になったのだ。

引用元:牛乳とタマゴの科学 完全栄養食品の秘密/酒井仙吉/著

そして玉子には腐らないための機構が存在する。
本書で例にあがるのは、

  • 粘液が乾くとクチクラになる。卵殻の表面には1万個程度の小さな穴があり、ここを通ってガス交換がされる。
  • クチクラが卵殻の表面を覆っていると穴を塞ぐことになり、微生物の侵入を阻止するバリヤーとなる。が、洗うと簡単に剥がれてしまう。
  • かつて冷蔵庫がない時代には洗わない玉子が店頭に置かれ、汚れがあっても文句をいう消費者がいなかった。洗うと腐りやすいことを経験的に知っていた。
  • 卵殻膜の主成分にはケラチンやムチンがあり、微生物が分泌するタンパク質分解酵素にきわめて強い抵抗力を発揮する
  • さらに卵殻膜は2層あり、微生物が侵入することは容易いことではない
  • 卵白にはオボトランスフェリンは金属イオンと結びついてこれを必要とする微生物は利用できない
  • 同様にアビジンはビオチンと結合し、ビオチンを必要とする微生物は成長できない
  • さらにリゾチームは微生物の細胞壁にある多糖類を分解することで微生物を殺す
  • オボムコイドのように微生物が分泌するタンパク質分解酵素を阻害する多種類のタンパク質が存在する
  • 玉子の炭水化物が0.3%と少なく、細菌が侵入するとブドウ糖を使い果たしてしまうので、初期の増殖を止めることができる
  • 無洗卵であれば室温に置いても50日程度はほぼ100%何事もない。洗卵しても腐敗しにくいが、衛生面を考えると室温に置くのは避けた方が良い

と、これだけ科学的に羅列できるのだ。
洗ってあっても、すぐさま冷蔵庫にしまってある卵は、多少の賞味期限が切れていたとしても食べることができる。
そして、これだけの知識があれば、自信を持って生卵をすすれる(笑)。

では、その賞味期限とはどのように決められているのだろう。

時期により異なりますが、卵の賞味期限は安心して「生食」できる期限を表示しています。サルモネラ菌の増殖が起こらない期間は卵の保存温度によって決まります。英国のハンフリー博士の研究に基づいて算出され、家庭で冷蔵保存する7日間を加えたものです。夏期(7~9月)が産卵後16日以内、春秋期(4~6月、10~11月)が産卵後25日以内、冬季(12~3月)が産卵後57日以内とされています。実状はパック事業者と量販店、バイヤーの話し合いで決めておりパック後2週間(14日)程度を年間を通して賞味期限としている所が多いようです。引用元: 日本卵業協会

とある。
いっぽうでサルモネラ菌の増殖には抗いがたいらしく、

サルモネラ菌に汚染されたタマゴは二〇〇〇~三〇〇〇個に一個あるとされ、実際に食中毒が発生している。菌数がすくなくても安心はできない。国内では菌数二〇、外国では菌数六で発症 した例があるという。タマゴは常温においても腐らない。それでもサルモネラ菌による食中毒の 危険性を下げるため低温での流通が望ましく、このためタマゴ売り場を低温にしていると「安全 性意識が高い」といわれる。サルモネラ菌は低温になると増殖がとてもゆっくりとなるからである。なお七〇度Cにすると一分程度で死滅し、毒素もなくなる。調理すると食中毒を防げるので、外国では生タマゴの食用を禁じる国があるほどである。訪日した観光客がすき焼きを食べるとき、一部の人は生タマゴに戸惑うという。それも当然で、このような背景があったのだ。

引用元:牛乳とタマゴの科学 完全栄養食品の秘密/酒井仙吉/著

とも。
もしもサルモネラ菌に汚染されていても、熱を通せば食べることができる。
ゆえに「卵焼きを食べたから、お腹が痛くなった」というのは、卵が腐っていたからという理由ではない。
それは他の食材に原因があるのか、あるいはアレルギーか何かではないだろうか…。

少し痛んだだけの野菜や、泥にまみれた野菜を忌避するひとが僕の周りには結構多くいる。
卵に関しても、こうした理由があるにも関わらず、数日の賞味期限が過ぎただけで捨ててしまう人を僕は「バカだな」と思う。
幸いにも東京圏出身の僕でさえ農村部に単身住まうことで、こうした知恵に恵まれた。
生まれ育った場所で、生きるための知識や経験はだいぶ変わるのだろう。

このことについては様々に思うところがあり、そのうち記事を書いてみようと思う。

【紹介した本について】

カテゴリー 単なる雑記読書の記録タグ 地方畜産業農業食品著者 酒井仙吉形態 新書出版社 講談社講談社ブルーバックス発行年 2013年初版年 2013年Cコード 生物学自然科学総記

この記事を書いた人

名無しのユータ

「読書が趣味」という訳ではないし、遅読で読解力も低い。けれど、読書を続けることでモノを考える力がやっと人並みに得られると感じ、なるべく毎日、本を紐解いている。
趣味はランニング、植物栽培など。