2024年の夏、僕は暑熱順化という興味深い経験をした。
35℃という酷暑の中でも、水分と塩分さえ適切に補給すれば、10kmものランニングを難なくこなせるようになったのだ。
真夏の昼間でさえ、走ることで暑さに抵抗できる身体になっていった。
この経験は、高校3年生の夏に遡って考えさせられる出来事だった。
あの夏、僕は大きく体調を崩した。
今思えば神経失調症のようなものだったのかもしれない、死ぬかと思うほどの苦しみだった。
朝に起きられず、夜も眠れない。
シャワーを浴びるのも、外出するのも億劫で、少し動くだけで心拍数が上がり、何をするにも嫌でたまらなかった。
昼間は猛烈な眠気に襲われるも、暑さのせいで眠れない。
今考えると、生活リズムの乱れと運動不足が原因だったのだろう。
この経験から、いわゆる「夏バテ」も同様の症状を引き起こすのではないかと考えるようになった。
夏は暑さを避けて室内にこもり、冷房の効いた部屋と外気の温度差に身体をさらし続けることで自律神経が乱れる。
さらに長時間座り続けることで体力や免疫力が低下する。
そうした状態で突然、極端な暑さのストレスを受けると、夏バテになるのではないだろうか。
だからこそ、日頃から暑い中で適度に運動することが大切だと僕は考えている。
確かに近年は、異常気象や温暖化の影響で夏場の運動が難しくなっている。
メディアも「運動を控えるべき」という論調が多く、野外での運動を避ける傾向が強まっているように思う。
しかし、大量に汗をかくことも必要なのではないだろうか。
暑い環境に身体を慣れさせることは重要だ。
スポーツ界ではこのことを「暑熱順化」という。
事前に暑さに身体をならすことによって、重要な試合や大会でしっかりと結果を残すように訓練することをいう。
とくにエンデュランス系のスポーツでは、この言葉をよく耳にする。
一部では「サウナ練」といって、サウナでしっかりと暑さを身に晒す練習もあるのだとか…(笑)。
それだけ運動中の暑さはパフォーマンスに影響を及ぼすのだろう。
ヒートショックプロテインの生成も、本来そうした環境への適応が重要だと身体が「記憶」しているからこそ、備わるものなのかもしれない。
実際、この夏は35℃近い真昼にランニングをすると、妙に身体が気持ち良かった。
身体の深部から疲労を感じ、内臓までもが外部環境の暑さを感じているようだった。
夜もしっかり眠れるようになり、クーラーなしでも扇風機だけで熟睡できた。
昨年はそうはいかなかったが、それは恐らく暑熱順化ができていなかったからだろう。
夏にしっかり運動をすることで、冬場に停止していた発汗機能も復活する。
水を飲んでも飲んでもまだ足りないという感覚が、生きている実感をもたらした。
食事中は水ばかり飲むので、案外食べ物を摂取する量が減り、結果的に痩せる…という副次的な効果までももたらした。
冬場は筋肉が温まるまで思うように動けないし、長距離を走ると故障しやすい。
一方、夏場は骨格系の故障がほとんどない。
暑さゆえに無理をせず、自分本来のペースで走れるからだろう。
さらに、暑さは筋肉を柔軟にしてくれるのかもしれない。
ただし、慣れるまでは無理は禁物だ。
僕の場合、コース上には公園の水道など、水を確保する場所がいくつもあった。
さらに塩タブレットは必ず持参し、水分を補給するたびに一緒に噛砕いて摂取した。
また、暑さによって体が動かない場合は躊躇なく運動を中止し、回避できるコースを選んでいた。
一度身体を壊せば、回復までの時間が長期に渡ることもあるし、熱中症で腎臓の機能が破壊されれば、人工透析など一生物のダメージを負うことになる。
彼岸花が咲き始めた今、次は「寒冷順化」の季節だ。
夏の暑さには耐えられるようになったが、僕は冬の寒さにめっぽう弱い。
これからは冬もしっかりと運動し、入浴で汗をかくことを心がけたい。
暑さと寒さ、両極端な環境に適応できる身体づくりが、次の季節の僕の課題となりそうだ。