結局、走るヤツがいちばん得をする

大人になることで、走る能力を棄ててきた?

姪っ子をみて思うこと

ヤツらはすぐに走り出す。

それは4歳と2歳の姪っ子を見て感じること。
彼女らは、歩くよりも走ることを選び、時には何らかの気づきによって突如として駆り出される…。
まるで、走ることがデフォルトの設定で、ゲノムに刻み込まれたかのように思えるのです。

考えてみれば、これは自然なことなのかもしれません。
親のそばで行動し、歩調を合わせる。
親のリズムに合わせて歩くことは、リスクを最小限に抑える手段だったのかもしれない。
だから走る…。

子供は成長と共に、脳のシナプスを刈り込むと言われています。
必要のなくなったシナプスは削除され、社会的に必要な回路だけが生き残る。
走り回る子供たちは徐々に、歩く大人へと変わっていくのです。
しかも「冷静」に。
突然走り出す衝動も、成熟と共に「不要なもの」として捨てられてしまったのでしょうか。

僕はそうは思いません。

コロナ禍以降、僕の趣味はランニングになりました。
実体験としても、走ることで気分が爽快になる…という経験は数えきれないほど。
最近、就職活動中の面接が僕を困惑させました。
詳細には触れませんが、それまでの経験が否定され、眠れないほどの悔しさが残ったのです。

次の日、気分が晴れないままに外へ出て、近所を走る。
最初の2〜3kmは辛かったのですが、5kmや6kmを走り続けるうちに気持ちが晴れる…。
走り終えた後、面接のモヤモヤが晴れ、新たな道を歩む決意が強まったのです。

読むべきは「ストレスを取り払う」章

このような経験は、科学的にも認められています。
それをまとめた本が、アンデシュ・ハンセン著の「運動脳」です。

特に重要だと思うは、第2章の「脳から「ストレス」を取り払う」の章。
現代社会では、ストレスは切っても切り離せない存在であり、上司の意見に従ったり、クレームに対処したりと、ストレスは積み重なるいっぽう。

冒頭に「ストレス」とはどのようなものなのか、解説があります。

まずあなたの身体には、「HPA軸(視床下部・下垂体・副腎軸)」と呼ばれるシステムが備わっている。HPA軸は脳の深部にあるH (hypothalamus) つまり視床下部から始まっている。そして、脳が何らかの脅威(たとえば、誰かがあなたに向かって叫び声を上げる)を感じると、視床下部がホルモンを放出してHPAのPである下垂体 (pituitary)を刺激する。すると下垂体が別のホルモンを放出し、そのホルモンが血流によって運ばれ、HPAのAである副腎(adrenal gland) を刺激する。それを受けて副腎は「コルチゾール」というストレスホルモンを放出し、そのために動悸が激しくなる。

この一連の反応は、一瞬のうちに起きる。叫び声が聞こえてから血液中のコルチゾールが増えて心拍数が上がるまで、 ほんの1秒ほどしかかからない。

引用元:運動脳

その刺激はそもそも、脳の中にある「偏桃体」が指令を発し、偏桃体からの指示を受けてから「HPA軸」が働くというメカニズムが絡んでいます。
さらに厄介なことに、刺激は一度ではありません。

扁桃体はこの警報システムのなかで、じつにユニークな働き方をする。ストレス反応を引き起こすだけでなく、そのストレス反応によっても刺激を受けるのである。

つまり、こういうことだ。扁桃体が危険を知らせ、それに反応してコルチゾールの血中濃度が上がると、扁桃体がさらに興奮する。ストレスがストレスを呼ぶという悪循環だ。

引用元:運動脳

そしてその影響は「海馬」へと波及し、長時間のストレス(コルチゾール)に晒された海場は縮んでしまう。
それだけではありません。
前頭葉までもが縮んでしまうのです。

では、どのような対処をすればよいのか。
著者はむろん、運動が必要だと述べています。

前頭葉が活発化すると、気持ちが穏やかになりストレスは減る。扁桃体がつくり出した不安をはねのける力がつく。ストレス反応をまるごと抑え込むため、「磁気による刺激を前頭葉に与えて活動を促す」療法も実在するほどだ。

要するに、ストレスを抑えたければ脳の「思考」領域、つまり前頭葉の機能を促せばよいのである。本書の主旨は運動が脳におよぼす影響についてなので、あなたはもう運動が海馬だけでなく前頭葉も強化するとお気づきのことと思う。 この2つの部位海馬と前頭葉は、ともに身体を活発に動かすことで何より恩恵を受ける部位なのだ。

引用元:運動脳

身体を動かせば、脳からストレスに強くなる。
前頭葉を働かせることができれば、自らの「認知」のチカラでストレスを跳ねのけることができる。
そして、次のように続きます。

定期的に運動を続けていると、運動以外のことが原因のストレスを抱えているときでも、コルチゾールの分泌量はわずかしか上がらなくなっていく。運動によるものでも仕事に関わるものでも、ストレスに対する反応は、身体が運動によって鍛えられる。したがって徐々に抑えられていくのだ。つまり運動が、ストレスに対して過剰に反応しないように身体をしつけるのである。 単に運動をしたために「全般的にいくらか気分がよくなっている」だけでなく、身体活発に動かしたことでストレスに対する抵抗力が高まるのである。

引用元:運動脳

本章での運動の効能を簡略的にまとめると、

  • ストレスが増すと、つまりコルチゾールの血中濃度が高くなると、脳内で情報を伝達する機能が妨げられるが、運動は逆にその機能を高める。
  • ストレスは脳の変化する特性(可塑性)を損なわせるが、運動はそれを高める。
  • ストレスが高まると短期記憶(数分から数時間の記憶)が長期記憶に変わる仕組みにブレーキがかかるが、運動はその逆の作用を促す。

とあります。
僕がランニングをして気持ちがスカッとしたのも、原理を理解すればどことなく頷ける話でもある。
そのプラスアルファとして脳の回路が高まるとは、効能が万能すぎる。

走ることの効能は万能すぎる

生活習慣病の予防

もっといえば、万能すぎる効能は、ストレスを上手に解消できるだけにとどまりません。
最近の研究によって、走ることには多くの利点があることが明らかになっています。

まず、身体的な健康に関して言えば、走ることは心臓や筋肉を強化し、体脂肪を減少させ、骨密度を向上させるなど、さまざまな健康効果が期待できます。
特に、ランニングなどの有酸素運動は、酸素供給を増加させ、全身の代謝を活性化させるため、生活習慣病の予防や改善に非常に効果的です。

うつの予防・改善

さらに「運動」「セラピー」「抗うつ剤」の3つにグループを分けて4カ月経過を観察した実験を、アメリカの臨床心理学者が行いました。
その結果、「運動」を続けたグループにおいて、うつ状態がぶり返した兆候は見られなかったそうです。
半年後の経過ではわずか8%。
いっぽう、抗うつ剤を服用したグループは3人に1人、全体では38%がうつ症状を再発し、これは「薬よりも強力」な効果が運動にはあると著者は述べています。

エンドルフィンで心地よくなる

精神的な健康についても、走ることは多くの利点を有します。
運動によって、脳内で幸福感をもたらすエンドルフィンが放出され、ストレスや不安を和らげる効果もある。
このため、走ることは日常のストレスやプレッシャーに対処する手段として非常に有効です。
ゆえに走り始めると、心の中のもやもやが晴れ、代わりに心地よい疲労感と達成感が訪れるのです。

結局、これらの要素を総合すると、走ることは極めて重要な要素であることが明らかです。
姪っ子の走りから得る教訓は、僕たちが本来持っている能力を存分に活かすことができる。
その元気な走りは、体と心の健康を保つ秘訣かもしれません。
走ることは単なるフィットネス活動だけでなく、僕たちの身体と心の調和を保つための重要な要素であることは間違いないのです。

【紹介した本について】

カテゴリー 読書の記録タグ ダイエットランニング健康脳科学運動著者 アンデシュ・ハンセン御舩由美子形態 単行本出版社 サンマーク出版発行年 2023年初版年 2022年Cコード 社会科学総記

この記事を書いた人

名無しのユータ

「読書が趣味」という訳ではないし、遅読で読解力も低い。けれど、読書を続けることでモノを考える力がやっと人並みに得られると感じ、なるべく毎日、本を紐解いている。
趣味はランニング、植物栽培など。