『世界99』を読む前に予習したハナシ

最近、村田沙耶香の新刊が発売されたと、あらゆるメディアで取り上げられていた。しかも内容も膨大で、上下巻あわせて800ページ以上だとか。もはや国家試験の参考書くらいのページ数だろう。

さらにこの世界99は、以前書かれた生命式という本の中にある「孵化」がもとになっているのだとか。

ということで、世界99を読み始める前に、改めて「孵化」を読んでみた。

単純に物語を説明すれば、シチュエーションに合わせて自分の性格を変えるハルカという主人公が5つの性格をもって、アイデンティティは何なのかと読者揺さぶる物語。結婚式前にあらゆる場面で接してきたそれぞれの他者が一同に会するとき、はたしてハルカはどの性格で存在すればよいのか思い悩む。

その結末は第6の性格が現れて…まさか!?というものなのだけれど、実は肝心の結婚式にどうなったのかという場面は描かれていない。しかも、薄っすら読み進めているとまるで解決したかのような結末になっているのだけれど、本質的には「密室での性格」となっているので、解決したことにはなっていない。つまり、密室から一歩でも外に出れば、また別の人格があらわれるわけで、これはもう読者の判断に委ねられるのだろうと思った。

ちなみに僕は「ママ」という第7の性格の出現もあり得るのだろうと思うし、いっぽうで両親や家族とのコミュニケーションはどのように対応していたのかというのは気になる。実はもっとあらゆる性格を持ち合わせていたのではないだろうか。

これは架空の物語ではあるけれど、多かれ少なかれ、アキの言うように人間はそれぞれ、場面によって人格を使い分けているように思う。とくに仕事場などは、素の自分をさらけ出していては仕事にならなかったりする営業職など、対人関係をメインとする業種もある。それが人によっては「裏表がある」として見られてしまう場合があるけれど、本来「ほんとうの自分」なんて誰にもわからないものだし、むしろ自分よりも他人のほうがわかっていたりする。

だからこそ、僕はこの主人公のハルカの生き方が、本来は正しいような気もしている…。

さて、こんな物語が3年以上にもわたって紡がれ、村田氏も言うように思いも寄らない方向へと突き進んでいったという。1冊約2,500円と、ボリュームもさることながら値段もなかなか重いのも事実。それでも読んでみたいと思わせるのは、村田沙耶香の世界に浸りたいわけで。

【紹介した本について】

カテゴリー 読書の記録タグ コミュニケーション著者 村田沙耶香形態 文庫出版社 河出文庫Cコード 文学総記日本文学、小説・物語

この記事を書いた人

名無しのユータ

「読書が趣味」という訳ではないし、遅読で読解力も低い。けれど、読書を続けることでモノを考える力がやっと人並みに得られると感じ、なるべく毎日、本を紐解いている。
趣味はランニング、植物栽培など。