僕は「地学」をなんにも知らない。

自ら地学を遠ざけていた

僕の通っていた高校の屋上には立派な天体望遠鏡が設置してありました。
いつか天体観測ができればと思いつつ、ついぞその日は来ませんでした。
理由のひとつに天体望遠鏡を管理している先生が恐ろしく怖いとの噂で、かつ担当している「地理」は果てしなく難しい…とかなんとか。
面倒はなるべく避けたい性格から、屋上には近づかない高校生活を送っていたのでした…。
というよりも、地理にあまり興味がなかった…といったほうが正確かもしれません。

そんなこんなで「地理」や「地学」の勉強をほとんどしていないまま社会人となり、地震のメカニズムや噴火のニュースを目にしてもよく分からない。
さらに登山をするようになり、山の成り立ちや石ころの種類に深い意味があるのだと気付かされる場面に数多く遭遇するようになったのです。
立ち返れば、自分のあしもとのことをよく知らない事実に、ふと思い至ったのです。

縦軸には「地球の動き」

そうして手にしたのが、古本屋で二束三文で売られていた「地学のツボ」という本。

「ちくまプリマー新書」だということもあって、若い読者向けの本ならではの読みやすさと、図の豊富さから理解が進みます。
そう。
ひとくちに「図が豊富」とはいえども、その図も分りやすく描かれています。
本文との参照で幾度もページをめくるも、そこに不満はありません。
むしろ、読めば読み進むほどその図の表している意味が頭に入るので、初学者でもすんなりと、楽しく読み進められるのです。

大きく分けてこの本は、

  • 地球の中身はどうなっているのか
  • 生命の成り立ち
  • 宇宙の歴史

を解説していて、その縦軸には「地球の動き」つまり「地学」が絡んで説明されています。

なかでも面白かったのは「プルーム・テクトニクス」。

「プレート・テクトニクス」からはじまったプレートの動きは、実は地球内部の火山の動き「プルーム・テクトニクス」に影響されている。
さらに生命体の絶滅のそのきっかけは「プルーム・テクトニクス」によるものである可能性も示唆されている…。
などなど、生きている地球と生物種の変遷とは切っても切れない関係にはじめて感動を覚えました。

そして話は地球を飛び出し、宇宙へ。
「ブラックホールのもとは星だった」ということは知ってはいたものの、星の質量によってブラックホールになるものとならないものがあるのだそう。
長い年月をみると、宇宙も循環していることが本書を読むと想像することが出来ます。

あとがきで著者の鎌田浩毅氏は、

他の教科と違う地学の魅力とは何であろうか?それは、最先端の内容が教えられているということだ。
たとえば、高校の数学は十七世紀までに発達した微積分などの内容が教えられる。また、化学は十九世紀までに発見された内容が、また物理では二〇世紀初頭に展開された原子核物理学の最初くらいまでが教科書の内容に入る。生物では少し時代が下って二〇世紀後半に進歩した免疫まで教えられる。
これに対して、地学の内容は二一世紀に展開中のプルーム・テクトニクスまでが教科書で扱われている。私が授業で話すときも、先週印刷された論文に書いてある内容を紹介したりする。
このように最先端を知ることができるという魅力にもかかわらず、高校生の地学の履修率は七%を切っている、という残念な報告もある。

(中略)

地学には地震・火山・気象など日常の自然災害に関連する重要な項目が含まれているが、日本の大部分の高校生はこれらを学ぶことなく卒業してしまうのである。地震国・火山国である日本列島に住むには、たいへん意見なことと考えざるを得ない。

と書いています。
僕も地学を学ぶことなく卒業した人間であって、その奥深さと重要性に打ちひしがれる思いです。

僕は地学について何も知らなかった。
何も知らなかったことを気付かされた1冊でもある。
そして知らなかったことを知ることでいつしか、あらゆる事柄に繋がることもある。
簡単に読める本であっても、知っておきたい内容がいくつも記述されていて、確かに日本列島に住まうのならば必読の書と思います。

【紹介した本について】

カテゴリー 読書の記録タグ 地学地理自然災害著者 鎌田浩毅形態 新書出版社 筑摩書房発行年 2017年初版年 2009年Cコード 地学自然科学総記

この記事を書いた人

名無しのユータ

「読書が趣味」という訳ではないし、遅読で読解力も低い。けれど、読書を続けることでモノを考える力がやっと人並みに得られると感じ、なるべく毎日、本を紐解いている。
趣味はランニング、植物栽培など。