5Gってよく分からないから読んでみる

5Gに対応するとはどういうことをいうのか。
まるで未来の技術かのようにみえるこの通信技術も、実はリアルタイムでどんどん生活の中に入り込んできています。

5G 大容量・低遅延・多接続のしくみ (ブルーバックス)

「1G」から「5G」までを俯瞰

これからは新しいスマホを買えばたぶん、アンテナアイコンには「5G」と表示されているのでしょう。
今までのスマホがそうであったように、意識することもなく、いつの間にやら5Gを使っていた…。
その裏では実は、地道で複雑な進化が世界的な競争のなかで進んでいるのです。

本書ではいわゆる1G(第一世代移動通信システム)からの説明から始まり、2Gではアナログからデジタルへの変遷。
3Gでは通信容量の増大とともに、国際基準が制定されたことが重要だと説き、4Gにいたってはスマートフォンの普及に伴う通信容量の増加にどう対応していったのかや、3.5Gやら3.9Gやらの規格が連発した理由など、技術の解説を交えながら読むことができます。

読むにしたがって携帯電話にまつわる技術の進歩がどう進んで行ったのかが分かるようにできていて、ページをめくるたびに携帯電話の歴史もおよそ掴めます。

逆にいえば、5Gの説明は後半の40ページくらいにしか説明がありません。
タイトルに「5G」と大きく書かれてはいますが、この本は「5G」を理解するための発展経緯を解説したもので、深く「5G」に関して述べているものではありません。
そこがこの本を読む醍醐味です。
なぜなら、5Gを理解するためには、その前段階の発展経緯が分かればスッと頭に入ってきやすいから。

僕はこの本を読まなければ「電波」のフワフワとしたイメージを具現化することはできず、いきなり「5Gの専門書」を読んだとしても理解が進まなかったように思います。
もっとも、当たり前のようにスマホを使うデジタルネイティブには、ガラケー(フィーチャーフォン)の使用感は理解できないはず。

あの頃、携帯電話で動画を観ることができるようになるなんて思いもしませんでした。
もっぱらドット絵で流れる、卑猥なガラケーのゲームに時間を費やしていた青春時代を想起する平成育ちの男性は僕だけではないでしょう(笑)。
けれどいまや、Youtubeやティックトックなど、動画をめぐるSNSやコンテンツは当たり前のように日常生活のなかに入り込んでいています。
その裏では多大なインフラの整備や情報技術の革新が進んでいた…。
携帯電話の進化とともに生きてきたような人間にとって、「あの頃にそんなことが起こっていたのか!」と肌感覚で理解できる。
いっぽうで、デジタルネイティブにその理解を求める必要はありませんが、少しは知っておいてもらうと嬉しい。

この本は、固定電話→ガラケー→スマホの変遷における文化を伝える書籍ではないし、そのことについて具体的に言及されているわけでもありません。
けれど、読み進めていけば、ガラケーや固定電話の「不便さ」「音の悪さ」「アンテナを探す滑稽さ」の意味を理解できるでしょう。
電波を使ってコミュニケーションを図ろうとするノスタルジーにも少しだけ浸れる。
ゆえにさまざまな層の読者でも読むに耐える本だと感じます。
また、この本を足掛かりに、他の5Gに関する書籍もスムーズに読めるようになるのではないでしょうか。

「5G」のキモ

さて、5Gの重要なポイントは

  • 大容量
    • 伝送速度:下りで20Gbps、上りで10Gbps
  • 低遅延
    • 待ち時間:1ミリ秒
  • 多接続
    • 接続密度:1平方キロメートルあたり、1000000台

接続密度が半端なく多くなっているのは、携帯電話の通信のみならず、モノによるインターネット「IoT」を念頭にいれているから。
自動運転、スマート農業など、5Gのメリットを最大限に享受できるサービスがさまざまに考えられます。
ただし、センサー類側の消費電力をどのように抑えるのかなどの課題は残っています。

「パノプティコン」のような監視社会

そして本書の読むべき箇所は最終章。
いまだ「5G」を体感的に利用できてはいないのに、実は「6G」をどのように制定していくのかの議論に入っている段階なのだといいます。
ところが情報は技術を提供する側に吸い取られてしまって、ベンサムのいうようにパノプティコン(全展望監視システム)がネットワークのなかに形成されてしまう。
つまり、僕ら消費者はスマホを使うことで喜んで自らの情報を差し出し、その対価として便利さを享受していますが、いつ、どんな形でその情報を利用されているのかを知ることはできません。
現にAmazonやティックトックなどを使っていると、自分の行動を分析された結果として、便利さを受け取っていることが容易に想像できます。
欲しいものや観たい動画が矢継ぎ早に僕らの目の前に提示されては、商品を買ったり、いいねボタンを押すのだから、それは僕らが「操作されている」と言っても過言ではありません。
よって技術は進歩すればするほど、人間が自ら意思決定する機会がますます「外部化」され、機械に取って代わられるようになる。
そこにリスクはあるのではないかと、著者は警鐘を鳴らします。

ここらへんは、2021年2月に発売される「思考からの逃走」で述べられているようです。

【紹介した本について】

カテゴリー 読書の記録タグ 5G著者 岡嶋裕史形態 新書出版社 講談社

この記事を書いた人

名無しのユータ

「読書が趣味」という訳ではないし、遅読で読解力も低い。けれど、読書を続けることでモノを考える力がやっと人並みに得られると感じ、なるべく毎日、本を紐解いている。
趣味はランニング、植物栽培など。