孤独や寂しさが酒を呼ぶ

漫画『アル中ワンダーランド』を読んだ。
作者はまんしゅうきつこ(まんきつ)氏。
ポップな絵柄とコミカルなタッチでありながら、物語は主人公が徐々にアルコールへと依存していく生々しい過程を描き出している。

あらすじ

主人公は酒を飲むと記憶を失い、「気づけば朝」を迎える日々を送る。
そして、朝になって初めて昨晩の失態の大きさに愕然とするのだ。
酒席ではまるで別人のように明るく饒舌になる一方で、素面(しらふ)の状態では他人とまともに会話することすらできない。
アルコールによって現実と夢の境界線が曖昧になり、しまいには飛行機が話しかけてくるという奇妙な幻覚「フェイクプレーン」を体験するまでになる。

ある日、主人公は道を歩く須藤元気さんの姿が歪んで見えるという異様な体験をする。
この出来事をきっかけに、ようやく医師の診察を受けることを決意。
診断の結果は「アルコール依存症」。
抗酒剤、抗不安薬、そして入眠剤が処方される。

その後、主人公は断酒会に参加する。
そこで出会ったのは、自身よりも壮絶なアルコール依存の体験を持つ年上の人々だった。
彼らとの交流を通して、主人公は断酒会に参加することの有効性を痛感する。

文庫本には、断酒約200日目の主人公を描いたオマケの漫画が収録されている。
そこには、記憶をなくし、飲食代を支払わない自分の姿があった。
その後も「スリップ」、つまり飲酒を再開してしまうことがあり、再び医師の診察を受けることになる。
その際、医師から告げられた「断酒会で会った人たちは、あなたの10年後の姿です」という言葉は、主人公に大きな衝撃を与え、さらに、脳の神経が飲酒を渇望するように変化しているため、アルコール依存症は一生治らない病気であるとも告げられる。

2019年から主人公はカウンセリングに通い始める。
その原因を辿っていくと、「孤独や寂しさが飲酒へと向かわせていた」という事実に辿り着くのだった…。

感想

誰でもアル中になる

この漫画を読んで、僕は他人事ではないと感じた。
孤独や寂しさは、誰しもが抱えうる感情だ。
そして、その心の隙間を埋めるようにアルコールは忍び寄る。
僕自身を含め、アルコール依存症に陥る可能性を皆が十分に秘めているのではないだろうか。

しかも、酒はあまりにも手軽に入手できる。
少量であれば安価であり、コンビニエンスストアに行けばジュースのように陳列されている。
手を伸ばすことへのハードルは極めて低い。

こうした問題を作中で提起した小説もある。

酒を飲まないで夜を超えられるか

歳を重ねるにつれて、「毎日酒と付き合う」という人が増えてきたように感じる。
「むしろ酒を飲まないで何をしているの」とさえ訊かれることもある。
そうした仲間がいる環境は、酒に手を出すことへの抵抗感を薄れさせる。
「あの人もこうして飲んでいるなら、自分も大丈夫だろう」という安易な考えに繋がりやすいから。

僕自身、不安を解消するために酒を手に取ることが多くなった。
考えても仕方のないことを延々と考えてしまう夜、つい酒に手が伸びてしまうのだ。
酒を飲んで朝を迎える、あるいは朝を迎えるために酒を飲むといった悪循環に陥っているような気もする。
もちろん、夜の時間に映画を観たり、本を読んだりもするのだが、酒を飲むと結局、内容があまり頭に入ってこない。
酔うとすぐに眠ってしまうのだが、夜中に目が覚めてしまうため、睡眠の質も決して良いとは言えない。

実際に、酒を飲まないで眠った日、スマートウォッチの睡眠スコアは、飲んだ日よりも明らかに数値が高い。
さらに、体重の増加も顕著だ。
たった3ヶ月で5kgほど増えてしまった。
もちろん、おつまみとして食べる柿ピーも影響しているだろうが、何を食べても満腹感を得られず、飲めば飲むほどアルコールの許容量が肥大していくように感じる。
そして、「毎日飲んでいる」という人たちと同じような体型になっていく…。

アル中患者は増えると予測

今後、結婚しない、孤独な独居生活者はますます増えていくと予想される。
孤独な夜を埋めるには、酒を飲むのが手っ取り早い。
そうした社会の変化は、アルコール依存症の患者増加に繋がるのではないだろうか。
漫画『アル中ワンダーランド』は、決して他人事ではない、ということは何度でも書き記しておきたい。
自分への戒めのためにも。

【紹介した本について】

カテゴリー 読書の記録タグ アルコールアルコール依存症健康医療費著者 まんしゅうきつこ(まんきつ)形態 文庫出版社 扶桑社発行年 2020年初版年 2020年Cコード コミックス・劇画芸術総記

この記事を書いた人

名無しのユータ

「読書が趣味」という訳ではないし、遅読で読解力も低い。けれど、読書を続けることでモノを考える力がやっと人並みに得られると感じ、なるべく毎日、本を紐解いている。
趣味はランニング、植物栽培など。